【意味・定義】契約自由の原則とは?

【意味・定義】契約自由の原則とは?

契約自由の原則とは、契約当事者は、その合意により、契約について自由に決定することができる民法上の原則をいう。




契約は当事者の合意により自由に決めることができる

契約自由の原則=私的自治の原則

契約自由の原則とは、契約当事者の合意により、契約について自由に決定できる原則のことです。

契約自由の原則は、別名「私的自治の原則」といいます。

つまり、契約自由の原則=私的自治の原則には、当事者間の関係=契約については、当事者の自治によって決める、という趣旨があるということです。

わかりやすく簡単に表現すれば、契約自由の原則は「契約当事者が契約について自由に何でも決めてもいい」という原則です。

契約自由の原則は、所有権絶対の原則、過失責任の原則(自己責任の原則)と並ぶ、近代私法の三大原則のひとつです。

近代私法の三代原則
  • 所有権絶対の原則
  • 過失責任の原則(自己責任の原則)
  • 契約自由の原則(私的自治の原則)

改正民法における契約自由の原則の規定は?

契約自由の原則は、改正民法第521条と同第522条第2項で、次のとおり規定されました。

第521条(契約の締結及び内容の自由)

1 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。

2 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。

第522条(契約の成立と方式)

1 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

ポイント
  • 契約自由の原則とは、契約当事者の合意により、契約について自由に決定できる原則のこと。
  • 契約自由の原則は、別名「私的自治の原則」。
  • 契約自由の原則は、所有権絶対の原則、過失責任の原則(自己責任の原則)と並ぶ近代私法の三大原則のひとつ。
  • 契約自由の原則は、改正民法により明文化された。





契約自由の原則は4つに分類される

契約自由の原則は、さらに次の4種類に分類されます。

4つの契約自由の原則
  1. 締結自由の原則(改正民法第521条第1項)
  2. 相手方自由の原則(改正民法第521条第1項)
  3. 内容自由の原則(改正民法第521条第2項)
  4. 方法自由の原則(改正民法第522条第2項)

【意味・定義】締結自由の原則(民法第521条第1項)とは?

【意味・定義】締結自由の原則とは?

締結自由の原則とは、契約自体を締結する(結ぶ)か締結しないかを自由に決定できる原則をいう。

【意味・定義】相手方自由の原則(民法第521条第1項)とは?

【意味・定義】相手方自由の原則とは?

相手方自由の原則とは、契約の相手方を自由に決定できる原則をいう。

なお、相手方自由の原則は、締結自由の原則に含める場合もあります。

このため、改正民法第521条第1項には、相手方自由の原則も含まれるとされています。

【意味・定義】内容自由の原則(民法第521条第2項)とは?

【意味・定義】内容自由の原則とは?

内容自由の原則とは、契約内容を自由に決定できる原則をいう。

内容自由の原則は、契約実務において最も重要な原則といえます。

【意味・定義】方法自由の原則(民法第522条第2項)とは?

【意味・定義】方法自由の原則とは?

方法自由の原則とは、契約締結の方法を自由に決定できる原則をいう。

ここでいう方法とは、例えば、口頭による契約とするのか、契約書による契約とするのか、などの契約締結の方法のことを意味します。





契約自由の原則の例外とは?

契約実務では例外のほうが重要

契約自由の原則は、あくまで原則ですので、当然ながら、例外があります。

特に、事業上の契約の場合は、なんらかの形で、契約自由の原則が制限されることが非常に多いです。

このため、契約自由の原則よりも、むしろその例外のほうが重要といえます。

契約自由の原則の例外の具体例

契約自由の原則の例外の具体例としては、以下のものがあります。

契約自由の原則の例外の具体例一覧
  • 【契約自由の原則の例外1】医師等の応召義務
  • 【契約自由の原則の例外2】インフラ関係の契約
  • 【契約自由の原則の例外3】強行規定に違反した契約内容
  • 【契約自由の原則の例外4】公序良俗違反(民法第90条)の契約
  • 【契約自由の原則の例外5】要式契約・要物契約
  • 【契約自由の原則の例外6】法律により書面作成が義務づけられる場合

それぞれ、次項にて詳しく見ていきましょう。

ポイント
  • 契約自由の原則にも、例外がある。
  • 企業間取引・企業法務における契約実務では、むしろ契約自由の原則の例外のほうが重要となる。





「締結自由の原則・相手方自由の原則」の例外とは?

【契約自由の原則の例外1】医師等の応召義務

締結自由の原則・相手方自由の原則の例外としては、例えば、医師の応召義務があります。

医師は、医師法第19条第1項により、診療治療の求めがあった場合は、原則として、これを断ることができません(締結自由の原則の例外)。

また、相手方=患者を自由に選ぶことはできません(相手方自由の原則の例外)。

なお、同様の規定は、歯科医師における歯科医師法第19条第1項、獣医師における獣医師法第19条第1項、薬剤師における薬剤師法第21条、助産師における保健師助産師看護師法第39条第1項等にあります。

【契約自由の原則の例外2】インフラ関係の契約

電気・ガス・水道・通信等のインフラ関係の契約についても、拒否されると生命や生活に関わるため、法律によって供給義務が課されています。

具体的には、一般送配電事業者における電気事業法第17条、一般送配電事業者等におけるガス事業法第47条等、水道事業者における水道法第15条、電気通信事業者における電気通信事業法第25条です。

また、旅館、ホテル、簡易宿所、下宿なども、旅館業法第5条により、原則として宿泊の拒否ができません。





「内容自由の原則」の例外とは?

【契約自由の原則の例外3】強行規定に違反した契約内容

【意味・定義】任意規定・強行規定とは?

内容自由の原則の例外としては、いわゆる「強行規定(強行法規)」により、契約内容よりも法律の内容が優先される場合があります。

そもそも、内容自由の原則にもとづき、契約当事者が自由に内容を決められるのは、その内容が、法律による規制がない場合か、または、いわゆる「任意規定」に該当する場合に限ります。

【意味・定義】任意規定・強行規定とは?
  • 任意規定とは、ある法律の規定に関して、契約当事者による合意がある場合、その合意のほうが優先される法律の規定をいう。
  • 強行規定とは、ある法律の規定に関して、契約当事者による合意がある場合であっても、その合意よりも優先される法律の規定をいう。

言い換えれば、内容自由の原則は、あくまで強行規定に違反しない限り、認められます。

なお、任意規定と強行規定につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

任意規定・任意法規とは?意味・具体例についてわかりやすく解説

強行規定は弱者保護を目的としたものが多い

事業上の契約に関係する強行規定は、弱者の保護を目的とした法律に多く規定されています。

例えば、企業とその従業員との労働契約には、労働基準法が適用されますが、この労働基準法の規定は、大半が強行規定です。

また、企業間の契約であっても、それぞれの資本金の金額と契約内容によっては、下請法が適用されますが、下請法では、支払期限等が強行規定となっています。

さらに、企業と一般消費者との契約では、消費者契約法や特定商取引法により、企業側が一方的に有利になる契約内容を無効とする強行規定があります。

このように、企業が関係する契約には、多くの規制による強行規定があるため、自由に内容を決められないことがあります。

【契約自由の原則の例外4】公序良俗違反(民法第90条)の契約

【意味・定義】公序良俗とは?

また、これらの法律に違反していない場合であっても、いわゆる「公序良俗違反」の契約は、内容自由の原則の例外として、無効となります。

「公序良俗」とは、「公の秩序又は善良の風俗」の略語です。

【意味・定義】公序良俗とは?

公序良俗とは、公の秩序又は善良の風俗の略語であり、公の秩序とは、国家や社会などの一般的な秩序、善良の風俗とは、社会の一般的な道徳的観念や社会通念のこと。

この公序良俗に反する契約は、民法第90条により、無効となります。

民法第90条(任意規定と異なる意思表示)

公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

公序良俗違反の具体例は?

過去の判例の傾向によると、公序良俗違反は、大きく分けて以下のように分類されます。

過去の判例にもとづく公序良俗違反の具体例
  • 人倫に反する行為(例:既婚者との婚約・不倫の契約)
  • 正義の観念に反する行為(例:賭博に関する契約)
  • 個人の自由を極度に制限する行為(例:芸娼妓契約)
  • 暴利行為(例:過度の違約金)

このような契約は、契約自由の原則の例外として、公序良俗違反となり、無効となります。

ポイント
  • 強行規定に違反した契約内容は、内容自由の原則の例外として無効となる。
  • 内容自由の原則は、あくまで強行規定に違反しない限り、認められる。
  • 強行規定とは、ある法律の規定に関して、契約当事者による合意がある場合であっても、その合意よりも優先される法律の規定のこと。
  • 公序良俗=「公の秩序又は善良の風俗」に反した契約は、民法第90条違反となり、無効となる。





「方法自由の原則」の例外とは?

【契約自由の原則の例外5】要式契約・要物契約

方法自由の原則の例外としては、代表的なものは、契約の成立に契約書の取交しなどの、特定の方法が必要な場合があります。

例えば、保証契約は、「書面でしなければ、その効力を生じない」(民法第446条第2項)とあるとおり、契約書の取交しがないと、そもそも契約自体が成立しません。

民法第446条(保証人の責任等)

1 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。

2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。

3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

このようなに、契約にの成立に一定の方式を必要とする契約を「要式契約」といいます。

【意味・定義】要式契約とは?

要式契約とは、契約当事者の合意のほかに、成立に何らかの方式が必要な契約をいう。

また、消費貸借契約は、「…相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる」(民法第587条)とあるとおり、単に契約を締結するだけでなく、貸借の対象となる金銭や物の受取りがなければ、成立しません。

民法第587条(消費貸借)

消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

このように、契約の成立になんらかの物・金銭等の引渡し・受取りを必要とする契約を「要物契約」といいます。

【意味・定義】要物契約とは?

要物契約とは、契約当事者の合意のほかに、成立に何らかの物品・金銭の引渡し・受取りが必要な契約をいう。

事業上の契約は方法自由の原則の例外が多い

方法自由の原則の例外としては、事業における契約では、書面の交付が必要な場合が多いです。

代表的な例としては、下請法第3条にもとづく、親事業者による「三条書面」の交付義務があります。

同様に、建設工事における、建設工事請負契約書の取交しの義務もあります(建設業法第19条第2項)。

【契約自由の原則の例外6】法律により書面作成が義務づけられる場合

この他にも、次の契約書が、法律によって作成が義務づけられています。

法律により作成義務がある契約書
  • 一部の業務委託契約書(三条書面)等(下請法)
  • 建設工事請負契約書(建設業法)
  • 家内労働手帳(家内労働法)
  • 建設工事設計受託契約書・建設工事監理受託契約書(建築士法)
  • 雇用契約書・労働契約書・労働条件通知書(労働基準法・労働契約法)
  • 労働者派遣契約書(労働者派遣業法)
  • 一部の消費者・事業者向けの契約書(特定商取引法・割賦販売法)
  • 金融商品取引契約書(金融商品取引法等)
  • 投資顧問契約書(同上)
  • 探偵業務委託契約書(探偵業法)
  • 住宅宿泊管理受託契約書(住宅宿泊事業法)
  • 保険契約書・保険約款(保険業法)
  • 信託契約書(信託業法)
  • マンション管理委託契約書(マンション管理適正化法)
  • 不動産特定共同事業契約書不動産特定共同事業法)
  • ゴルフ場会員契約書(ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律)
  • 商品投資顧問契約書(商品投資に係る事業の規制に関する法律)
  • 定期建物賃貸借契約書(借地借家法)
  • 特定商品等預託等取引契約書(特定商品等の預託等取引契約に関する法律)
  • 貸金業者による金銭消費貸借契約書(貸金業法)
  • 一部のフランチャイズ契約書(中小小売商業振興法)
  • 積立式宅地建物販売契約書(積立式宅地建物販売業法)
  • 警備契約書(警備業法)
  • 熱供給契約書・約款(熱供給事業法)
  • 電力小売供給契約書・約款(電気事業法)
  • ガス小売供給契約書・約款(ガス事業法)
  • 産業廃棄物処理契約書(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)
  • 不動産の売買・交換・賃貸に関する契約書(宅建業法)
  • 企画旅行契約書・手配旅行契約書等(旅行業法)
  • 福祉サービス利用契約書(社会福祉法)
  • 商品取引契約書(商品先物取引法)




このように、事業上の契約では、契約書等の書面の作成義務があるため、注意が必要です。

なお、これらの法律上作成が義務づけられている契約書につきましては、詳しくは、次のページをご覧ください。

【改正民法対応】法律で作成義務がある契約書は?具体例や理由についても解説

ポイント
  • 要式契約・要物契約により、方法自由の原則が制限されることがある。
  • 多くの事業上の契約は、法令による規制により、方法自由の原則が事実上制限される。





契約自由の原則に関するよくある質問

契約自由の原則とは何ですか?
契約自由の原則とは、契約自由の原則とは、契約当事者は、その合意により、契約について自由に決定することができる民法上の原則のことで、主に次の4つに分類されます。

  • 契約自由の原則とは、契約当事者の合意により、契約について自由に決定できる原則のこと。
  • 契約自由の原則は、別名「私的自治の原則」。
  • 契約自由の原則は、所有権絶対の原則、過失責任の原則(自己責任の原則)と並ぶ近代私法の三大原則のひとつ。
  • 契約自由の原則は、改正民法により明文化された。
契約自由の原則の例外には、どのようなものがありますか?
契約自由の原則の例外には、以下のものがあります。

  • 【契約自由の原則の例外1】医師等の応召義務
  • 【契約自由の原則の例外2】インフラ関係の契約
  • 【契約自由の原則の例外3】強行規定に違反した契約内容
  • 【契約自由の原則の例外4】公序良俗違反(民法第90条)の契約
  • 【契約自由の原則の例外5】要式契約・要物契約
  • 【契約自由の原則の例外6】法律により書面作成が義務づけられる場合